U19 ラトケ裂嚢胞
- 咽頭の病気
病態と定義
ラトケ裂嚢胞は、下垂体発生過程で生じるラトケ嚢の遺残から発生すると考えられている(図1A)。人ではほとんどの例で、ラトケ裂嚢胞は頭蓋内でトルコ鞍の上方に嚢胞が進展し1、犬でも頭蓋内進展するタイプのラトケ裂嚢胞が報告されている2。一方、まれではあるが人で嚢胞が鼻咽頭内に拡大することが報告されており1、犬でも下垂体窩直下の鼻咽頭背壁より生じる嚢胞を形成し、鼻咽頭をぼぼ閉塞し上気道閉塞を発症した例が報告されている3。ここでは、前者をラトケ裂嚢胞の頭蓋内型、後者を頭蓋外型と呼び、とくに呼吸器徴候を示す頭蓋外型に注目する。両者のタイプとも肉眼所見では嚢胞は薄い被膜により被われ、内容物は一般的には粘調なムコイド様、あるいはゼラチン様液体である。嚢胞内容液に対する炎症反応は被膜や隣接する組織にみられる。人では、剖検例や画像で12~ 33%にラトケ嚢胞が確認されるが、ほとんどが無症候性である4。ラトケ嚢胞の自然縮小の機序は不明であるが、嚢胞液の吸収や繰り返し嚢胞破裂がおきることによって縮小する可能性が指摘されている。
図1 下垂体の発生(A)とラトケ裂嚢胞の形成の機序の概念図(B)。A: 神経性外胚葉と上皮性外胚葉の融合の際に残る間隙をラトケ裂と呼ぶ。B: 本来下垂体はトルコ鞍という骨性空洞内に内包されるが、ラトケ裂由来の嚢胞が残る場合があり、これをRathke’s cleft cyst(ラトケ裂嚢胞)と呼ぶ。嚢胞は頭蓋内に形成されることが多いが(頭蓋内型)、ラトケ嚢からラトケ裂まで発生過程の異常によって、蝶形骨内と交通して鼻咽頭内に嚢胞を形成したり、蝶形骨外に独立して形成されたりすること(頭蓋外型)が報告されている。頭蓋外型は鼻咽頭を閉塞し、上気道閉塞症状を引き起こす。A: https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H23.12.1.pdfより引用、改変。