SP28 肺血栓塞栓症
- 肺の病気
病態と定義
肺血栓塞栓症(Pulmonary Thromboembolism:PTE)は全身静脈系または右心において形成された塞栓子(血栓)が肺動脈に詰まることで起こる。突発する呼吸困難を特徴とするヒトのエコノミークラス症候群は同じ機序で生じ、静脈血栓塞栓症と総称される代表例である1。病態は小さな塞栓による偶発的で臨床的に問題とならない場合から大きな塞栓による突然死と様々である。静脈血栓の形成因子にVirchowの3徴候として知られる血液凝固亢進、血流停滞、血管内皮損傷がある。血栓が生じると、低酸素血症、気管支収縮、間質/肺胞性浮腫による換気血流比不均等、過呼吸などが起こる2,3。また、肺胞サーファクタントの喪失により肺胞への液体侵入や活性化好中球により微小血管透過性の増加に伴う肺水腫が発生することが報告されている2。PTEの心血管への影響は、肺血管閉塞の程度に依存する2。肺血管系には予備能が大きく、肺血栓塞栓が無症状である場合の理由のひとつとなっている。重度の肺血管の閉塞は右心系への後負荷増大につながり、右心室が拡張すると、心室中隔が左にシフトし、結果として生じる左心室充満の減少は、心拍出量を減少させ、前方不全の兆候(低血圧、心原性ショック)をもたらす2。また、中長期にわたっての後負荷の増大により肝腫大、腹水、胸水が発現する可能性がある2。