SP13 免疫介在性間質性肺炎
- 肺の病気
病態と定義
免疫介在性間質性肺炎は、間質性肺疾患を起こす要因の1つとして、炎症、感染、毒素、吸入性曝露、薬物による二次性の反応、放射線、新生物、特発性などとともに知られている1,2。ヒトの「膠原病肺」に相当し、これは関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)、強皮症、混合性結合組織病、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群などを背景に生じる間質性肺疾患と定義されている3。残念ながら、獣医学領域では免疫介在性疾患の動物に間質性肺疾患(ILDs)が疑われたとしても、本疾患に関する十分な情報がないため、肺生検等で精査・診断されることはまれであり2、そのため本疾患の認識や情報は不足している。獣医学領域でも代表的な免疫介在性疾患のSLEは、自己抗体を産生し免疫複合体(抗原-抗体複合体)を形成する。その免疫複合体が臓器特異的に沈着することによって炎症と線維化が生じる。ヒトでは、肺実質(肺胞出血)、血管(塞栓症)、細気管支(気管支拡張症)、胸膜(滲出液を伴うものとそうでないものがある)、横隔膜を含む呼吸筋それぞれが単独あるいは同時に障害され、一般的にほかの臓器の発症よりも進行過程の後期に肺の障害が現れ、SLE患者の半数で肺疾患が発生する4。高率に感染症を併発し、抗リン脂質抗体陽性症例もある5-8。ヒトのおける膠原病肺でみられる肺病変は背景となる基礎疾患に応じて様々な所見を示す(表1)。
獣医学分野では散発的となるが、免疫介在性疾患に間質性肺炎を呈した報告をあげてみた。SLEと診断された体重減少、虚弱を呈したメキシカンヘアレスの去勢雄で、血小板減少症と肺野の間質性粟粒性パターンがみられ、気管支肺胞洗浄(BAL)でLE細胞(lupus erythematosus cells)やラゴサイトが検出され、抗核抗体価は640倍で、犬・猫のSLE診断基準(文献9,p357, Tabel. 1)に従うと、大分類で2項目(血小板減少症、炎症性多発性関節炎)、小項目で4項目(中枢神経症状、リンパ節症、不明熱、胸膜炎)が該当した9。リーシュマニア症を自然発症した雑種犬18頭の全ての肺組織から虫体は検出されず間質性肺炎の病理所見がえられ、免疫介在性間質性肺疾患の一形態と考えられた10。びらん性鼻炎を呈したアナトリアン・シェパード・ドッグで免疫介在性血管炎と診断された1例では、CT所見で肺のすりガラス陰影がみられ、抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody;ANCA)陽性でヒトのウェグナー肉芽腫症に似ていた11。死後剖検により全身性非感染性壊死性血管炎いわゆる結節性多発動脈炎と診断された若齢猫では、肺にも病変がみられた12。ステロイド反応性の間質性肺疾患の犬2頭では肺病理組織所見はないが、臨床病理所見と画像所見から特発性器質化肺炎と推察され、免疫介在性間質性肺炎が疑われた13。
表1 ヒト膠原病肺でみられる肺病変(文献3より引用)。間質性肺炎以外の病変を示す場合も含まれていることに注目。
①膠原病肺
1)間質性肺炎
2)気道病変:細気管支炎、気管支拡張症など
3)胸膜病変:胸膜炎、胸水
4)血管病変:血管炎、肺高血圧、びまん性肺胞出血
②感染症による肺病変
細菌、抗酸菌(結核を含む)、ウイルス、真菌、ニューモシスチスなどによる感染
③薬剤性肺障害による肺病変
膠原病の治療として使用した薬剤(抗リウマチ薬など)によるもの