SP02 犬の慢性閉塞性肺疾患(肺気腫含む)
- 肺の病気
病態と定義
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は慢性気管支炎の終末像として生じ、不可逆的な気流制限を伴う潜行性疾患である。末梢気道は不可逆性気流制限が起こりやすい主な部位である。環境内にある刺激性ガスや浮遊物の長期吸引に対する末梢気道における組織反応が気道壁の肥厚性変化や気道内の炎症性産物の蓄積を生じ不可逆的な部分的な気道閉塞に至り、一方、肺実質でも慢性吸引性刺激物質が気道が炎症を起こし免疫機序の破綻を引きおこし、肺胞壁が破壊され肺気腫が生じる1。ヒトではこの過程の原因は、喫煙によると考えられている喫煙によると考えられている2。末梢気道の変化と肺気腫が相互に影響を及ぼし、吸気時には肺に空気が過剰に入るが、呼気時には肺から空気が排出しづらくなる。そのため、呼吸を繰り返すことで徐々に肺が過膨張し、肺血管、心臓だけでなく横隔膜の呼吸筋も圧迫し、呼吸筋疲労が生じ、末期には胸部と腹部が相反して動く奇異呼吸を示すようになる(動画1)。COPDの特徴である慢性の気流制限は、末梢気道病変、慢性気管支炎と肺胞の破壊(肺気腫)が複合的に作用することで生じる(図1)。経過に従い、末梢気道の構造的変化と狭窄を引き起こす。また肺胞の破壊も生じ、肺の弾性収縮力も低下する1。一般的に、気道の構造的変化は疾患の重症度とともに増加する。高度の慢性気管支炎に伴う全気道抵抗の増加は、呼吸仕事量を増加させて、低酸素血症を進行させる。高度進行例では、二次性赤血球増加症を示すようになる。さらに、低酸素血症に応じが肺動脈の血管収縮が生じ、肺高血圧症と右心不全を起こすようになる。
動画1 COPDと診断した犬の末期に認められた奇異呼吸(文献7の症例)。シーズー 10歳 オス。飼い主は重喫煙者で10年間受動喫煙していたと考えらえられる。咳はないが、努力呼吸が続いていた。初診から、2年2ヶ月でこのような奇異呼吸を示し、急に状態が悪化した。
図1 COPDにおける気流制限のメカニズム